アステラス健保 健保だよりNo.46
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 10~20代はその後の人生で重要となる学力、対人関係能力や生活能力などを培う大事な時期です。この時期に精神的な不調を抱えながら、相談や支援・治療などを受けられずにいると、不調は悪化したり長引いたりするだけでなく、諸能力の発達も阻害される可能性があります。精神的な不調の中から精神疾患をなるべく早期に発見し、治療開始へと導くことが、とりわけ重要となります。一方、この時期は通常の精神的発達過程であっても自我意識が育つことと裏腹に不安を感じやすく、精神的な動揺が著しいことが特徴とされており、"疾風怒濤の時代"と表現されることもあるくらいです。このため、よく知られた精神疾患であっても、正常との区別が難しいことはまれではありません。今回は主な精神疾患の思春期~青年期における特徴を周辺疾患を含めてみていきたいと思います。 統合失調症は、約100人に1人が発症する極めて頻度の高い病気です。幻聴や妄想といった通常では見られない精神症状が前面にでてきますが、こころの働きの多くの部分は保たれていると考えられています。以前のイメージとは異なり、現在では症状が軽快し、通常の社会生活を取り戻す患者さんは50%以上となっています。 この病気は、症状、経過、そして長期的な予後によって大まかに「破はか瓜型」、「緊張型」、「妄想型」の3つのタイプ(病型)に分けられます。若年者に好発するタイプが「破瓜型」といわれています。このタイプでは幻覚や妄想は明らかでなく、「以前と比べて元気がない」、「友達と交わらず引きこもるようになった」といった変化が中心であることも少なくありません。このためうつ病や神経症といった他の病気とみなされたり、環境に対する心理的な反応と解釈されて発見が遅れることもあります。 一方、自分の容姿が醜いと悩み、それが発展して「街を歩く人みんなが自分を見て醜いとうわさしている」といった妄想を持つようになる醜形恐怖ないし思春期妄想症、「自分の頭の中から音楽や声が聞こえる」といった訴えがみられる場合がある解離性障害など、他のこころの病気でも統合失調症の症状とよく似た訴えをする患者さんが比較的多いのもこの年代の特徴です。 気分障害とは、気分や意欲の変化を基本とする障害で、周期的に落ち込んだり、高ぶったりする時期が現れるのが経過上の特徴です。「落ち込む時期」、すなわち抑うつ状態では、気分がふさいで意欲が低下し、物事に対する興味や関心を失うという変化が起きます。不眠や食欲不振もしばしば出現します。正常でも生活上で出会うさまざまなできごとや体調などの影響を受けてこのような状態に陥ることはまれではありません。「高ぶる時期」、すなわち躁状態では気分爽快、活動亢進、睡眠欲求の低下(眠れないのではなく眠らない)などが見られます。 気分障害はおおまかに、落ち込む時期のみが繰り返し現れる「(単極性)うつ病」、落ち込む時期、高ぶる時期が交代で繰り返し現れる「双極性障害」の2つに分けられます。若年で発症する気分障害には「双極性障害」の経過をたどるものが比較的多いとされています。また10~20代に発症するうつ病のひとつとして、季節性うつ病があります。秋または冬に気分の落ち込みや意欲の低下が始まり、春や夏になると軽快するという季節に沿った周期を示すもので女性に多いといわれています。一般的なうつ病では不眠、食欲低下が多いのに対して、季節性うつ病ではむしろ過眠、食欲亢進が目立つのも特徴的です。 この年代の女性では、さらに月経に関連した気分の変動に悩まされる人も少なくありません。普段はまったくうつ症状のない女性が、月経開始数日前から、気分の落ち込みや不安感が強くなり、時には怒りっぽくなります。社会および家庭生活を送るうえで支障をきたすレベルとなると月経前不快気分障害と呼ばれ、治療を要する場合もあります。 周期性を持たず、慢性に経過するうつ状態に関しても、10~20代に現れる場合は、正常な心理的反応との連続性を持つものから、先に述べた統合失調症の本格的な発症の前触れとして出現するものまで、さまざまであるため注意が必要です。10 夏は暑さで睡眠の質が落ちやすい季節です。良質な睡眠をとるのに適した環境は室温26℃、湿度は60%前後といわれています。寝室環境を整えて、すこやかな睡眠が保てるよう心がけましょう。 今年度の「めんたるへるす通信」では、ライフサイクルを子ども、若年、中高年、老年の4つの時期に分け、それぞれの時期における主要なメンタルヘルスの問題と、気をつけておきたいポイントをお伝えしていきます。第2回は若年のメンタルヘルスについてご紹介します。アステラス通信統合失調症気分障害病 型好発年齢主な症状経過・予後破瓜型(解体型)思春期~25歳くらい感情の鈍麻・意欲の低下慢性に経過⎛ 人格面での ⎞⎝ 変化が目立つ ⎠緊張型破瓜型と同じかやや年長興奮昏迷⎛意識はあるが⎞⎝ 無動・無言 ⎠急性に経過(寛解しやすい)妄想型30~35歳くらい幻覚や妄想慢性に経過⎛人格面での変化は⎞⎝  目立たない  ⎠

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